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キャリア迷子

著者 小林さとる

発行 2023年1月27日 第1刷

ディスカヴァ―ビジネスパブリッシング

キャリアコンサルタント/公認心理師

(1)キャリア迷子が増えている

キャリア迷子とは、キャリアで悩み、人生の方向性に迷っている人々のことです。

人類600万年の歴史で、人がキャリアについて考えるようになったのはつい最近のことです。日本は、どんな人でも自由に職業を選べるようになったのが、1946年の日本国憲法公布以降です。

キャリアで悩む人が増えているのは、個人が自由なったということの裏返しなのです。
キャリア迷子は、自分の働き方を見直し、より幸せな道へ踏み出すための準備期間(ニュートラルゾーン)として捉えることもできます(ネガティブな意味だけでなく)

トランジションには、❶自分で選んだ転機 ❷突然の良きせぬ転機 ❸ノンイベントの3つのタイプがあります(シュロスバーク)。

(2)そもそもキャリアって何だろう?

キャリアという言葉は、どこか「上昇志向」、「出世主義」、「勝ち組」というイメージがもたれがちだが、本来は人生の歩き方といった意味を持つ言葉です。

キャリアは、道路や競馬場のコースなど意味するフランス語の「carriere」に由来すると言われています。ここには、成功や出世の意味はありません。単純化して要約するとキャリアとは「一生涯の経歴」がもともとの意味です。

「職業上の経歴」と捉えるのは狭義のキャリアの定義でこれをワークキャリアと呼び、一方、広義のキャリアは、「一生涯にわたる役割や経験の積み重ね(人生そのもの)」であり、本質的なキャリアとなります。

キャリアデザインとは、「より豊かに、より幸せに過ごすために、これからを前向きに描くこと」、「自分の仕事や生き方について、自分らしい正解を探し求め、実現していくこと」と呼んでいます。その考え方をキャリアデザイン思考とします。

客観的にはキャリアアップ(外的キャリア)、主観的にはキャリアダウン(内的キャリア)ということもあり得ます。

幸せになることが目的のキャリアデザインとは、客観的な状態のチェンジではなく、主観的な感じ方のチェンジをより重視するものです。

キャリアの旅で迷った時に示される地図になるのが、キャリア理論です。

(3)これからの働き方

働くことを義務と捉えるのではなく、「働く人が自分の意欲と能力に応じて希望する仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利(キャリア権)」という考え方が注目されています。

個人が組織と適切な関係性を保ちながら、安定的にキャリアを築いていくためには、
◎見えないスキル(非認知的スキル)を磨いておく。
 非認知スキルを性格スキルと呼ぶこともあります。ビックファイブ(真面目さ、開放性、外向性、協調性、精神的安定性)という性格特性理論があります。

◎個人と組織、双方向のバランスが取れている関係を築く。
 バーナードは組織論の視点で「組織均衡(誘因と貢献)」という考え方を提唱しました。

◎エンプロイアビリティ(employability=雇用され得る能力)を高める。将来、AIがやる仕事と棲み分けをするためには、自律的、積極的、能動的な働き方が求められる。仕事に対して、やりがいや意義を見出すことが大切である。

(4)キャリアデザイン思考を身につけよう

多くの人とは、トランジションをきっかけにキャリアを見直します。
プレステップとして、4Sの点検をします。4Sとは、状況、自己、周囲への支援、戦略です(シュロスバーク)。

ステップ1では、自分を知る(自己理解)です。ライフラインチャートを書いてみるのもよいでしょう。自己分析は、考え方のクセが出るので、専門のツールを使うことを勧めます。例えば、エゴグラム、ビックファイブ(特性5因子論)、キャリア・アンカー

ステップ1で、重要なことは、等身大(ありのまま)の自分を素直に受け入れることです。

ステップ2では、周囲の状況を知る(社会理解)です。キャリアは、自分だけでは作れません。必ず、対象となる相手があり、相手との関係のなかで作られます。

自分の相手も社会に中に存在しており、時代ごとの社会のあり方や変化の影響を受けます。
具体的には、経済動向、求人動向、産業構造の変化、職業理解(求人票を読み込む)です。

ステップ3では、今後の方向性(向かっていく目標)とギャップ分析です。
ギャップの大きさは、現状の自分と理想に自分との距離によって決まります。ギャップを埋めるための方策は、リスキリングやリカレントなどの学び直しです。

ステップ4では、意思決定して行動を起こすことです。キャリアデザインは、競争ではありません。人生物語の主人公として、状況に適応して、新たなストリー(オルタナティブ・ストリー)を描いていきましょう。

(5)感想

キャリア迷子という書名には、ネガティブなイメージがありますが、著者が言いたいことはトランジション理論をベースに、キャリア迷子をニュートラルゾーンと位置付けて、新たな生き方を模索するチャンスと捉えるということです。

この転機を乗り越えるために、キャリアデザインのステップ(思考)について具体的に説明しています。自分の内なる声(内的キャリア)を聞くことが重要ですので、著者がステップ1で自己理解からスタートしていることは賛同できます。

これからは、外的キャリア重視の上昇型キャリアデザインではなく、内的キャリアを重視して自分らしい自分の人生を生きるキャリアデザインにシフトしていくのだと思います。

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