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幸せに生きる方法

著者 平本あきお 前野隆司

発行 ワニ・ブックス

2021年8月10日 初版発行

平本あきお メンタルコーチ

前野隆司 慶應義塾大学大学院 教授

     ウェルビーイングリサーチセンター長

(1)アドラー心理学の基礎=共同体感覚と5つの理論

アドラーは、自分の理論について「私の心理学は理学ではなく、工学だ」と言っています。これは、現代心理学とアドラー心理学の違いを表現しています(平本あきお、以下平本)

前者が「どうして人は悩むのか」(理学:人間の構造についての研究)を、後者は「どうしたら悩みを解決するのか」(工学:人間の機能についての研究)という視点を基本にしています(平本)。

幸福学も目指すところは「心の工学」です(前野教授、以下前野)。
幸福度と最も相関関係が強かったのが自己受容です(前野)。

共同体感覚は、アドラーの長年の臨床経験と研究に基づく哲学です(平本)。

所得や学歴より、自己決定性の高さが幸福度を上げます(前野)。
目的論は、現代の心理学にない視点です。目的論は、客観的に観察してもわかりません(前野)。

アドラーは、科学的な正しさを追求するのではなく、臨床現場で役に立つことを目指しています(平本)。

主観主義は、文化心理学(文化相対主義:諸文化は独自の価値体系が持つ対等な存在と捉える態度)のアプローチに似ています(前野)。

現代心理学に構成主義学派(客観的現実は存在せず、人間は自分の作り上げた物語の中でしか生きていけない)がありますが、この源流にあるのがアドラーの主観主義です(平本)。

主観主義とは、相手の見ている世界に寄り添うことです(平本)。
主観主義は、多様性を認め合うことです。友達が多様なほうが幸せだという研究もあります(前野)。

すべての人間は、自分の居場所を見つけようとしています。対人関係論は、自分らしくいられる居場所なんです(平本)。

五つの理論自体が全体論で関連し合っていると考えてください(平本)。
五つの理論は「この立場で関わると臨床的に治療しやすい」という立場に基づく仮説です(平本)。
共同体感覚という哲学は、心理学のテクニックが誰かをコントロールする危険を避けるために欠かせないののです(平本)

(2)アドラーの目的論は人も組織も幸せにする

目的論は、悪いところの反対に注目して強化する(平本)。
目的論で関わることは、相手の立場で感じること(平本)。
目的論で話す時は、Yes and(それいいね、そして、これをしてくれたらさらに嬉しい)という言い方をします(平本)。

目的論は、リソースフル追求型の解決。心の状態が良いのか、楽しいのか(=リソースを十分に活用できる)を追求します(平本)。

組織においても、モチベーションやエンゲージメントやウェルビーイングなど力を注ぐところが増えており、リソースフル教育の方向に向かっています(前野)。

教育の場で、もっとアクティブに相手をリソーフルにしていく働きかけが必要です。勇気が湧いている状態にする教育です(平本)。

目的論に変えた瞬間、仕事も組織も人生もあっという間に良くなります。目的論をまず浸透させることが、アドラー心理学の他の技法も実践しやすい下地作りになります(平本)。

聴くことよりも相手の不平不満の感情を出し切ることを重視しています(平本)。
ポジティブな気持ちの方が、創造性も生産性も高まります(前野)。

(3)性格の成り立ちと子育ての技術

人間の行動は、ライフタスク(状況・課題)とライフスタイル(性格)の組み合わせで決まります(平本)。

人間は主観的に世界を認識しているため、その世界像にも必ず自己が投影されます(平本)。
相手の関心に関心を持つことで初めて、自分の関心に関心を持ってもらえます(平本)。

野田俊作先生は、アドラー心理学の根幹は、瞑想とほぼ同義語にように扱っています。瞑想を続けていると共感力が高まるという脳科学の研究結果もあります(平本)。

アドラーは人間の記憶について「今、自分の身に起こっていることに相応しい過去を思い出すのであって、それは主観的な過去だ」と言っています(平本)。
幸せになるために必要な過去を思い出します(平本)。

子育てと教育において、アドラーが必要としたのは,自立と協力の二つです(平本)。
自立=自分でできる、自分はこうしたいと思えること
協力=まわりに助けを求めたり、考えや意見の違う人と折り合いをつけられること

折り合うとは、お互いに対等な関係で認め合ったうえで、双方が納得できる解決策をみつけることです(平本)。

リフレームのポイントは、性格を変えるのではなくて。ただラベルを貼り替えるだけです。性格に良い悪いはなくて、その人がよりその人らしいことが良いとアドラーは言っています(平本)

3種類のリフレーム。第1ステージは例外探し、第2ステージは肯定的意図、第3ステージは他者貢献です(平本)。

(4)勇気づけとアサーションの実践例

リソースフルな状態は、勇気づけられている状態です(平本)。
褒める、叱るは、あくまでもこちらからの目線に過ぎません。大事なのは、受け手の状態です。受ける側の反応がすべてということが、勇気づけの大前提です(平本)

勇気づけについて、アドラーはドイツ語で「ムート(Mut)が大事だ」と言っています。
ムートは英語でcourage、勇気と翻訳されます。私はむしろ日本の「気」に近い概念です(平本)

気という内側にあるエネルギーが湧いてくるというイメージがしっくりきます(前野)。
勇気づけは、受け手目線で「勇気おこせ」と呼ぶべきかもしれません(平本)。あくまでも主語は受け手だというニュアンスを理解したうえで使いたいですね(前野)。

「褒めればいい」という対応を奨励していないだけで、アドラーは承認欲求を全否定していません(平本)。

岸見先生は、嫌われる勇気で、「他人の目なんて気にせずに自分に正直に生きましょう」と言いたいのだと思います(平本)。

アドラーの勇気づけは、褒める、叱るのように上下関係で評価するのではなく、対等なヨコの関係で、相手の気持ちを高めるように促すコミュニケーション技法です(平本)。

過程や努力に意識を向けるように促すメッセージは、受け手側に自分の人生をコントロールできている感(=創造的自己)を育むきっかけになります(平本)。

過程や努力のような非地位財による幸せは長続きします(前野)。

増えてほしい部分を指摘するメッセージは勇気づけになります。フィードフォワード(これから何をしてほしいかを示唆する)方が、成長を促進します(平本)。

アドラー心理学は全体的合理性を高める方法です(平本)。
幸せとビジネスは相反するどころか、完全に一致します(平本)。

何かを上手くできるということは、誰かに貢献できるということとイコールだという方向に意識を向けるように促します(平本)。

アドラー心理学の勇気づけは、相手と自分を幸せにするための活動です。成功も失敗も受容できた方が幸せになります(前野)。

(5)感想

アドラー心理学と幸福学のコラボ内容に、なんども「なるほど」と繰り返しながら読み通しました。読後の半端ない納得感や幸福感に浸っています。

特に、著者のまえがき(前野)とあとがき(平本)は、著者それぞれの生き様や強い思いが心に重く響きました(共振しました)。まえがきの前野先生の下記の思いが本書のすべてを語っていると言っても過言ではないでしょう。

『心より祈っています。すべての人が、自分を大切にし(自己受容)、まわりのみんなと信頼し合い(他者信頼)、社会のために何か行動できますように(貢献感)。誰もが人生の主人公(創造的自己)として未来を思い描けますように(目的論)。あなたの思いが尊重され(主観主義)、必要とされますように(対人関係論)。すべての生きとし生けるものが幸せに生きられますように(共同体感覚)。本書がそのための一助となっていますように。
みんながつながっていますね。あなたが幸せでありますように(幸福学)。』

本書からいただいた私にとってのギフトは、以下の三点です。。

第一に、アドラー心理学の全体像を体系化したことだと思います。その根っこには、共同体感覚が哲学としてあります。様々な技法がありますが、学ぶことはできますが、何のために学ぶがなければ、単なる操作主義的な心理学に陥ってしまいます。アドラー心理学は、すべては、共同体感覚を育むためという思想、哲学がないと成立しません。

私は、アドラー心理学を氷山のモデルで体系化(1枚の図解)してみました。
共同体感覚は、すでに生まれた時に心の中にデフォルト(初期設定)されています。共同体感覚に気づき、育んでいくことが人生そのものとも言えると思います。やはり、そのためには
拙著でも述べたように「良質な経験」を積み重ねていくしかないと思います(千本ノックを受けるイメージ)。

第二に、広義の目的論を使用することで、人も組織も幸福になるということです。目的論は、アドラー心理学の中で、人と組織を劇的に変える最強の理論だと思います。広義の目的論を使用することで多くの社会的問題を解決する糸口が見えたり、精神的に救われる人が多くなるのではないかと思います。

第三に、勇気づけは、あくまでも受け手が主語になります。受け手目線で言えば、勇気起こせと呼んだ方が適切だということです。勇気づけという言葉は、上から目線観があって、ヨコの関係を重視するアドラーの教えとは違和感がありましたので、この指摘でスッキリしました。

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