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生命科学的思考

著者 高橋祥子

発行 (株)ニューズピックス

2021年1月6日 第1刷発行

ジーンクエスト 代表取締役

(1)生命に共通する原則とは何か

生命の機能は、出来る限り個体の生存や繁栄に有利になるように不要なものをそぎ落とし最適化する方向に進化しています。

生命原則を理解する上でまず知っておきたいのは、生命はとても非効率な存在のように見えるということです。

生命原則は、個体と取り巻く外界の環境が常に変化するものであることを前提に作られます。

なぜ生命原則を理解する必要があるのか、「生命原則を理解することで広い視野を獲得できるから」です。視野には、空間的視野と時間的視野があります。

狭い視野をもって「自分とは違う」と他者を差別の対象にしてしまうと、広い視野においては、多様性があるからこそ繁栄できている人類の否定、つまり自らを否定してしまうことになります。

多様性は、生物が命をかけて作り出してきた生命の最大の特徴です。

(2)生命原則に抗い、自由に生きる

「自由意志が存在するかどうか」よりも「自由意志が存在すると自身が思うかどうか」が、本人の自発的な行動に無意識に影響を与えています。

自身の意志に基づいた行動を取ることが「生命原則へ歯向かう力」となります。

行動を起こさないままやってくる未来と行動を起こしたときの未来の差、いわば「未来における差分(未来差分)」を意識することから課題が生まれます。

課題がなくなることが決してないということは、常に良い未来を想像して、そこにたどり着くための努力できるということです。

生物だけが、時間経過と環境に伴って自分自身を変化させながら維持しています(無生物と隔てるもの)。その根底にある原理が動的均衡(動きながら平衡状態を保つ)です

時間の認識が「二つ以上の異なる性質を持つ変化」の比較という相対的なものに基づくのなら、その比較対象は自分自身の生命変化にするのが本来あるべき姿ではないでしょうか。

幸福と快楽の違いは、時間軸にあります。一時的な時間の生体反応に視野を持つのが快楽、将来の希望など長期的な時間の視野を持って物事を捉えるのが幸福です。

利己主義の延長線上にある利他主義として、他者のことも考えて行動することで集団としての生存につながり、結果として自分も生き延びることになります。

情報という客観的なものを理解した上で、感情という主観的なものをベースに行動を起こすことが大切です。

他者とは異なる自分の主観でそれぞれが思考し、行動することこそが人類の希望です。

(3)一度きりの人生をどう生きるか

覚悟は葛藤を凌駕します。時間軸の視野のコントロールができれば自由に覚悟を持つことができます。

覚悟とは、「不確実で曖昧な曖昧な未来に対して、どうなっても絶対に後悔しないと最初に決め抜いておくための、掟のようなもの」です。

覚悟は、最初に決めておくという時価軸を持つことが大切です。さらに、時間軸を区切っておくことも重要です。

カオスな環境(秩序が無く、予測が不可能な環境)に身を置くことで、他者とは異なる自分の主観的な命題に気づくことが可能です。

カオスであればあるほど、疑問は生まれやすくなり、ひいては主観につながります。なぜから始まる疑問は、社会ではなく自分の主観に紐づいています。

思考を深めるためには、生まれ持ったものよりも、どのような環境に身を置くかの方が大事です。考え抜かないといけないカオスな状況では自分の思考を形作るのに有効です。

より良い未来を目指して覚悟を決めるとき、もう一つ大切なのが「情熱」です。まずは動き出すことで自然と情熱が湧いてきます。

未来差分の大きさと良い未来に向かって動き出す初速の掛算(積分量)が情熱の源泉です。

生命だけが代謝によってエントロピーを排除し秩序を保っています。常にエントロピーが増大する(エントロピー増大則)宇宙において、動きながら、常に変化にながら平衡(動的平衡)をとるのが生命です。

生命は、エネルギーを代謝して維持していくための努力をしています。人間は生命維持の為に必ず努力する必要があります。

自分の意思を明確にして、エントロピー増大に抗うためにどんな努力をするか、つまり有限なエネルギーをどこに割くべきかを優先して考えるべきです。

(4)予測不能な未来に向け組織を存続させるには

組織を構成する人自体が、生命原則に従った生命活動を行っているため、生物の本来性を理解することがより良い組織運営に繋がります。

差異に注目すると同時に「何が同じか」という点にも注目しないと、多様性の本質を見失います。多様性の本質は、同質性の土台を前提とした差異の存在です。

同質性とは、企業経営で言えば、ある目的を達成したいと考える同質性を持つ人を集めることです。

生命の仕組みは、失敗許容主義であり、失敗も成功も含む累積探索量を増やすことは良しとしています。

失敗許容主義は、短期的に見ると非効率的な戦略に見えますが、長期的には効率に良い生存戦略となります。

経験を積むと脳の学習機能によって過去の経験による影響を受けやすく、視野の設定が不自由なった状態(偏見)に陥りやすいです。

生命維持の仕組みと同じように、企業経営にも複数の異なる時間軸の施策を意識して保持する仕組みが重要です。

予測可能性が高い状況ほど客観より主観が重要となります。ビジョンやストリーは主観から生まれるものであり、曖昧な未来に対して他者を巻き込む上で重要です。

(5)生命としての人類はどう未来を生きるか

テクノロジーそのものだけに着目するのではなく、そのテクノロジーを含む私たちの世界がどうあるべきかという全体像について考える、つまりシステム全体を見る視点で考える方が建設的です。

感性豊かに自身の主観的な感情を捉え、建設的な問いを立て、思考して行動し続けることが、テクノロジーが発展する世界においてはより重要になります。

テクノロジーの変化が速い時代には特に、時間的・空間的に点思考に陥らずに視野の設定を適切にコントロールしながら考え選択する必要があります。

テクノロジーの変化が速い時代には、コントロール可能に見える世界に視野が固定されがち。テクノロジーの可能性を追求すると同時に生命に対する謙虚さも必要です。

自然と人工は二分できるものではなく、二者のグラデーションの中でしか人間は生きられないのではないでしょうか。

なぜ主観を活かす上で生命原則を客観的に理解することが大事なのか。それは、科学の知見を獲得し客観的にヒトという生物の性質を知ると、人間は自ら固定された視野から解放され、ただ本能のままに物事を捉えるよりも主観(個人が特有に持つ意志)を洗練させることができるからです。

(6)感想

自分の視野の狭さや思考停止になってしまう部分は、なにかモヤモヤし、自己肯定感を持てない自分がいましたが、生命原則を理解することでスッキリしました。

視野の狭さや思考停止は、アンコンシャスバイアスを生み出しますが、これも防衛本能が働いているという生命原則と理解することができます。

生命原則を知ることによって、自己理解、他者理解、つまり人間理解が深まると思います。なぜなら、差異をお互いに受け入れる(受容する)ことを踏み台にして、次に未来に向かってお互いにどう協働できるかを考えることができるからです。

時間的視野、空間的視野を自動調整することによって、自由な生き方が選択できると思います。

人類は、生命原則に抗うことができますが、本能と闘うことでもあり、相当な意志の力が必要となると思います。これは、本書でも引用していた吉田松陰の言葉である「諸君、狂いたまえ(常人には理解できないほどの主観によって行動せよ)」に尽きると思います。

利己的な遺伝子を持つ人類が、利己主義を拡張して利他主義になれるという指摘は共感しました。自己犠牲によって他者の利益を考えることは利他主義とは言わないことになります。

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